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The Blue Bear

星野道夫は不思議な人だ。
彼が突然別の世界へ旅立ってしまったとき、いったいどれだけ多くの人が肉親を失ったときのような喪失感を味わったことだろう。たとえ生前の彼に一度も会ったことがない人でさえ。
わたしもそういう一人だが、星野さんの残した写真と文章に触れ、その歩んだ道を思うとき、10年たった今もなお、心がさざ波立つ。
そして永遠に答えを得ることのできない問いが、いつもいつも湧き上がる・・・「どうして?」
星野さん、どうして? クマよ、どうして? 神様、どうして?

星野さんの著作を片っ端から読んだわけではない。ましてや没後に編集し直された物はなおさら。
星野さんのことを描いた本も読んでいなかった。読めなかった、というのかな。
池澤夏樹著「旅をした人」も数年前に買ったまま、いまだに本棚に積んである。


でも、森仲間の(お)さんが教えてくれたこの本は読めた。タイトルに惹かれたのかもしれないし、カバーの雄大な写真と、挿入ページに写る(ただし、星野さんの作品ではない)素The_blue_baer_small 晴らしく美しい毛並みのクマの姿のおかげかもしれない。

「ブルーベア(原題:The Blue Bear)」

著者はアラスカ南東部を中心に、船にお客を乗せてガイドをしているリン・スクーラー。星野さんもクジラなど海の生物を撮影する時は、必ずといっていいほど頼っていた存在。
初めは単なるガイドとお客、アメリカ人と日本人。意思の疎通もパーフェクトではなかったであろう、ぎこちなかった関係が、やがて個々の人間としての繋がり=替えがたい友情へと変容していく。そして二人は“幻の”という形容詞がつくブルーベア(グレイシャーベア)を探す旅に出かける。

ともすると“特別な人”のように扱われ、時には神格化されてしまうようなこともある星野道夫が、この本の中ではおそらく等身大で描かれている(わたしは生きている星野さんを知らないから、あくまでも想像だけど)。著者の星野さんに対する限りない愛情に満ちた、やさしいまなざしが感じられる。そしてそこに描かれている人間味あふれる星野さんは、「やっぱりそういう人だったんだ」・・・・写真や文章から想像できる姿を裏切ることなく。
一番心に残ったのは、撮影を終えて星野さんが「クジラ、ありがとう」と見送る場面。
あ、あと、それから・・・・。

これ以上書いちゃうとつまんないからやめておく。
ただ、著者自身のことにもだいぶページが割かれていて、それがまた星野さんとの出会いが彼に与えたものの大きさを示すのに欠かせないのだけど、1冊全部が星野さんについて書かれているわけではない。だから100%星野さんを期待して読むと「あれ?」と思うかもしれない。
でもやはり手にとってみて欲しい本のひとつだ。
人が存在するということは、他の人との関わりの中で存在することに大きな意味がある。
星野さんのように大きな仕事を成し遂げた人であれ、そうではない誰であれ、人に影響を与え、影響されて生きている。
星野さんはいなくなってしまってからも、人々に影響を与え続けている。それはやっぱりすごいこと。

空高くオーロラの彼方にいるのかなぁ?
楽園で、美しいものに囲まれて、どうか安らかに。


PS:電車の中で読むのはおススメしません。ふいに視野がぼやけますから。

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